従業員の睡眠と経営の密接な関係

1 はじめに

従業員の健康状態は、会社の経営に大きく関わってきます。中でも配慮したい健康への取組みのひとつが、「睡眠の改善」です。睡眠不足や睡眠の質の低下は健康状態を悪化させるだけでなく、生活習慣病の罹患リスクも高めます。従業員の睡眠を改善し、良い健康状態を維持することは、パフォーマンスの向上だけでなく、職場環境の改善や雇用の定着にもつながるのです。
そこで今回は、睡眠不足のリスクとその予防策や、「未病改善」に力を入れている神奈川県の取組みについてもご紹介します。

2 睡眠不足は生活習慣病の原因のひとつ

慢性的な睡眠不足は、体内のホルモン分泌や自律神経機能に大きな影響を及ぼすといわれています。「日中、眠気に襲われる」「疲労やストレスを感じやすくなり、集中力が低下してしまう」といったことの原因となるだけではなく、糖尿病や心筋梗塞、狭心症といった生活習慣病の罹患リスクも高めるとされているのです。
また、不眠症や睡眠時無呼吸症候群、睡眠・覚醒リズム障害といった、睡眠障害そのものが生活習慣病のひとつであるという考え方もあります。睡眠不足や睡眠障害を放置してしまうと、心身の健康は大きく害されてしまうのです。

出典:厚生労働省HP 厚生労働省のe-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病との深い関係」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-008.html

3 従業員の睡眠不足がもたらす仕事への影響

睡眠時間(睡眠の質)は、忙しい日常生活の中で優先度が低くなりがちです。特に、交代勤務や夜勤が多いと、生活時間と体内時計にずれが生じやすくなり、睡眠リズムが整いません。また、一般的な就業時間であっても、長時間労働の慢性化によって十分な睡眠が取れなかったり、ストレスによって睡眠障害を引き起こしたりしてしまう可能性があります。
睡眠不足は、業務への集中力や意欲の低下の原因となって仕事の質を下げてしまうほか、さまざまな体調不良を引き起こしやすくするといわれています。業務に必要な人材が確保できない状態が続けば、残された人の労働時間が伸び、さらに負のスパイラルに陥ってしまうでしょう。

参考
出典:厚生労働省HP 健康づくりのための睡眠指針2014
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf

4 会社で取り組むべき睡眠不足対策

従業員の睡眠不足を予防するためには、経営側が対策することが大切です。シフトワークの場合、夜勤の頻度に偏りが出ないよう、全員のシフトを管理することが求められます。また、長時間労働が慢性化しないように「ノー残業デー」を導入したり、従業員それぞれの作業効率を上げるためにフレックスタイム制を導入したりしてもいいでしょう。なお、せっかく導入した制度を形骸化させないために、深夜労働や一定の時刻以降の労働を禁止することで、より実効力を持たせることができます。
もちろん、働き方・休み方改革ができるように、常に業務の効率化を意識することが第一です。また、人手不足のために制度が実現できないという事態を防ぐ意味でも、職場環境のチェックを怠らないようにしましょう。

5 神奈川県が取り組む「未病改善」

神奈川県は、未病改善に積極的に取り組んでいる自治体のひとつです。
神奈川県では、健康と病気を「二分論」の概念で捉えるのではなく、心身の状態は健康と病気の間を連続的に変化するものとして捉え、この全ての変化の過程を表す概念を「未病」としています。日常の生活において、「未病改善」により、心身を健康な状態に近づけていくことが重要です。
そして、健康でなくなる要因として食生活の乱れや運動不足、睡眠不足等が挙げられます。
未病の改善は、高齢になっても健康で自立した生活を送れる「健康寿命」の延伸にもつながります。まずは神奈川県が用意した「未病チェックシート」でみずからの未病の度合いをチェックし、判定結果とアドバイスを元に未病の改善を図ると良いでしょう。
さらに神奈川県では、「食」「運動」「社会参加」という3つの柱で未病改善の普及に取り組んでいます。日々の食事の栄養バランスへの配慮や健康に良いレシピの紹介、日常生活に運動を取り入れることの推奨、ボランティア活動や趣味を通じて社会に参加し自立度を高めて人と交流することを促進しています。良い食事をとり、適度な運動を行うことは、睡眠時間の不足や睡眠の質等の改善にもつながります。

6 おわりに

従業員の睡眠改善のための取組みは、会社全体の業務の質を高めるだけでなく、職場環境の向上や雇用の安定にもつながり、経営効率を高めるメリットも期待できます。従業員の健康状態はもちろん、残業時間や作業効率の良し悪しをチェックすることも、経営側に求められる取組みといえるでしょう。